大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(オ)1383号 判決 1985年3月07日

上告人

株式会社鐵原

右代表者

野村健二

右訴訟代理人

長尾憲治

被上告人

齊藤申二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人長尾憲治の上告理由について

株式会社がその設立後に定款を変更して株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めを設けるとの決議をした場合には、右の定めが株券の必要的記載事項とされているため、その記載のない旧株券を回収してこれを記載した新株券を発行する必要があるので、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)三五〇条一項は、会社において、一定の株券提出期間を定め、右期間内に旧株券を会社に提出すべき旨及び提出されない株券は無効となる旨の公告及び株主等に対する通知をしなければならないものとしているのであつて、旧株券は、株券提出期間が経過したのちは株券としては無効のものとなると解される。しかしながら、株券提出期間内に旧株券を提出しなかつた株主も株主たる地位を失うものではなく、このことは、株券提出期間満了前に、したがつて株式譲渡制限の定款変更の効力発生前に(同法三五〇条二項参照)旧株券の交付を受けて株式を譲り受け、株主の地位を取得していたが、いまだ株主名簿上の名義書換を受けていなかつた者についても異なるところはないというべきである。そして、この名義書換との関係においては、会社は、これを請求する株主が株主名簿に記載されていないことを理由に株主であることを否定して名義書換を拒否することはできないから、株券提出期間経過前に株主となつていた者は、右期間を徒過したためその所持する旧株券が株券としては無効となつたのちであつても、会社に対し、旧株券を呈示し、株券提出期間経過前に右旧株券の交付を受けて株式を譲り受けたことを証明して、名義書換を請求することができるものと解するのが相当である(最高裁昭和五一年(オ)第四一九号同五二年一一月八日第三小法廷判決・民集三一巻六号八四七頁参照)。これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(和田誠一 谷口正孝 角田禮次郎 矢口洪一 髙島益郎)

上告代理人長尾憲治の上告理由

第一点 原判決は、判決に影響を及ぼすこと明らかな商法第二〇六条第一項及び第三五〇条第一、二項の解釈を誤つた違法がある。

一、原判決は、被上告人は昭和五四年三月四日頃、野村泰司から本件株式の譲渡を受けて本件株券の引渡を受けこれを所持していること、上告会社は昭和五四年六月二八日の株主総会において株式の譲渡をするには取締役会の承認を要する旨の定款変更の決議をし、商法第三五〇条第一項の規定に基づく株券提出期限を同年八月三一日までとする旨の公告をしたことの事実を認定し、いわゆる株式譲渡制限の定款変更は、既になされた株式譲渡の効力になんらの影響を及ぼすものではなく、又、右公告期間の経過により株券が無効となつても、無効となる以前に当該株式の譲渡と株券の引渡を受けて株主となつた者は、右の事由で株券が無効となつても、株主の地位を当然に失うものではない、としている。

しかしこの判示は以下の理由により承服できない。

二、いうまでもなく権利の得喪変更ということと、得喪変更した権利を第三者に主張できるかどうかということとは、法律上全く異別の事柄である。

それがため、折角権利を取得したのにもかかわらず対抗要件を備えていなかつたために第三者に権利を主張できない場合のあること、主張できないことの反面として取得者の権利が否定される場合のあることを法律の自明のこととしている。そして取得者が対抗要件不備のため取得した権利を主張できない場合、その権利を主張できるのは既に対抗要件を備えている者であり、その者がたとえ当該権利を譲渡していたとしても、なお変ることがないこともいうまでもない。

又、権利の主張つまり対抗ということは、対抗要件を備えたときは、その時以降権利変動のあつた過去に遡つた時点から権利を主張できるということではなく、権利変動のあつた時期には関係なく対抗要件を備えた時以降将来に向つて権利を主張できるということである。従つて対抗要件を備えた場合でも、取得者が対抗できる権利の内容は、対抗要件を備えた当時の権利状態に止まるということになる。過去において無欠の権利を取得したからといつて、当然に無欠の権利を対抗できるものでないことも指摘するまでもない。

三、(一) 株式の譲渡は、記名式無記名式を問わず譲渡の合意と株券の引渡によりこれが行われる。そしてこの譲渡は、会社に関係なく、会社外において当事者間だけで行われる。

(二) しかし記名式株式については、「記名株式の移転は取得者の氏名及び株主名簿に記載するに非ざれば、これを以つて会社に対抗するを得ず」(商法二〇六条一項)とされているから、当事者が株券の引渡等を了しただけでは会社に対し、株式に対する権利喪失と取得、つまり移転を会社に対抗することができない。いわゆる株式の名義書換をしなければ、会社に対する関係では、取得者は取得の効果を主張することができず、その反面として会社は、たとえ既に株式に対する権利を喪失した者であつても、株主名簿記載の者を株主として待遇することとなる(但し会社に対する対抗ということであるから、会社の方から、名義書換を経由していない者であつても株主として認め、その反面株主名簿記載の者であつても株主と認めないことができることは、いうまでもない)。

(三) 又、株式の名義書換えは、請求があつて初めて会社が行うことであつて、請求がないのに、会社が名義書換の原因たる事実を調査すべき義務或いは名義書換請求の催告をなすべき義務を負うものでもない。

そして名義書換請求をするか否かは、当該株式を取得した者の随意で、取得者に名義書換請求をなすべき法律上の義務が課せられている訳ではない。取得者は自己の欲する時期に、自己の欲する者の名義に書換請求ができる権限を有し、これを行使するかどうかは、正にその者の意思次第である。そして株式の名義書換請求は、不動産の登記等と異り取得者が単独で請求でき、譲渡人がこれに協力義務を負つているものではない。

株式の名義書換を請求し得る権利は、以上のようなものであり、名義書換は上記のような効力を有するものであるから、これを行使しない者は行使しないことによる不利益を当然受諾しているというべきである。けだし法律上不利益を蒙りたくないならば、直ちに名義書換請求のできることが保障されておりながら、不利益を承知の上で而も名義書換請求をしなかつた者は、自己の損失において請求をしなかつたものといわざるを得ないからである。そしてこの理は、名義書換請求をしないうちに、取得した目的物たる株式が変質したときも同様というべきである。

名義書換により主張し得る対抗力の内容は、名義書換をした当時の状態のものであり、取得当時の状態のものではないことから考えても、当然のことといわなければならない。

四、いわゆる株式の譲渡制限の規定を定める定款変更の効力は、将来に向つてのもので過去に遡つて生ずるものでないこと、又右変更の効力の発生前になされた株式譲渡の当事者間における効力を、直接転覆させるものでないことは、原判決の説くとおりである。

しかし、そうだからといつて譲渡制限の効力が生じた後になつて、譲渡制限の効力発生前の譲渡(取得)を理由に名義書換請求が可能であると結論することには、論理の飛躍がある。

(一) 例えば、株式会社の定款には、多くの場合株式名簿の記載の変更を停止する旨の規定を設けている(乙第一三号証第一四条。商法第二二四条ノ三)。いわゆる株式名簿の閉鎖であるが、この期間中は、会社は株式の名義書換を拒絶できる。

もし、閉鎖期間前の譲渡(取得)であるという時期の点だけを強調するならば、譲渡(取得)後に到来した株主名簿の閉鎖という定款上の事情を理由に、名義書換の拒絶を正当化することは不都合ということにならざるを得ない。

しかし、これを誰も異としないのは、株式の名義書換は、譲渡等書換の原因事実の時期の前後によるものではなく、名義書換をなす時における障害の有無、自律規範たる定款の定めによるべきものであること自明のこととしているからに他ならない。

株主名簿の閉鎖期間又は基準日を定款に定めていないときは、法律は公告等の方法によりこれを周知させることを会社に命じているから、周知させる方法を構じたにもかかわらずこれをしなかつた者を不利益に取り扱うことを、当然のこととして誰も怪しまないのである。

(二) それでは、株式譲渡制限の規定を設ける定款変更の場合はどうであらうか。

周知のとおりこの定款変更は、株主総会の特別決議により(商法第三四八条第一項)、各株主に対する催告及び公告を経た上で変更の効力が生ずるとされている(第三五〇条第一、二項)が、公告等により周知する方法を構じたのにも拘らず、名義書換をしなかつた株式の譲受人(取得者)が、定款変更の効力の圏外に在るという理由はどうしても見出すことができない。

株式の単純併合(第二九三条ノ三ノ三第一項)、資本減少による株式の併合(第三七七条)、株式の分割(第二九三条ノ四)等の場合、その効力はいつれも将来に向つて生ずるものである。そして併合等の対象となる株式については、概ね譲渡制限の規定を設ける場合と同様の手続を経て、一定の日時までに会社に提出されなかつた従来の旧株券を一率に無効とすると共に、当該の日の経過と共に株式併合等の効力が生ずるものとされ、「旧株券の無効」、株式併合等の「効力の発生」の二点は、株式譲渡制限の規定を設けた場合と同じである。

株式併合等の場合、併合の効力は将来に向つて生ずるものであり過去に遡るものではないという論を貫徹するならば、併合の効力の生ずる以前に株式の譲渡(取得)を受けた譲受人は、併合等の効力が生じた後になつても、会社に対し、右効力発生以前の株式譲渡の効力を主張できるというようなことにならざるを得ないが、このようなことがまかり通つたと仮定するならば、併合をする目的と背馳し、収拾し難いことになる。本件においても、もし原判決の理論に従えば、被上告人が訴外早川正輝の名義で本件旧株券を提出し(同訴外人は株主名簿に株主として記載されている)、上告人が譲渡制限の効力の生じた後に本件旧株券に代る右訴外人名義の新株券を交付していた場合でも、被上告人は譲渡制限の効力発生前に旧株式を取得していたことを理由として、随意の時期に新株券について名義書換請求ができることになるが、このような解釈は極めて不当といわなければならない。

思うに、株式譲渡制限の規定を設けた場合及び前述の株式併合等の場合、株券を会社に提出せしめ、或いは提出されなかつた株式を法律上無効とする所以のものは、会社という社団の画一的処理の要請から、株券を提出させ又は無効とすることにより、株式の流通を遮断することにより会社との関係で株主を確定することに在る。そしてこの確定した株主に対する関係で譲渡制限の効力を生ぜしめ、又は併合の効力を生ぜしめているものである。

このことは、甲がA株式を乙がB株式を所有しているが、株主名簿上は丙がAとBの株主として記載されている場合、AとBとの株式併合の効力が生じたとき(甲も乙も名義書換をしていなかつたとする)、丙は会社との関係で併合後の株主とされるが、甲と乙とは株主とは全然されないことなどからみても、株主確定のことは十分窺えるところである。

すなはち法律は、権利を行使する株主を確定するため、株主名簿の閉鎖又は基準日の制定を定めているが、株主の確定は株主名簿の閉鎖、基準日の設定のみに止まらず、株券の提出又は株券を無効とすること(株券が無効である以上、株式の流通は行われない)によつてもこれをなしているものである。

株主名簿閉鎖、基準日設定の場合は、株式を流通させたままで株主を確定させ、株券の提出又は株券を無効とする場合は、株式の流通を遮断することにより株主名簿記載の変更を不可能とし、これにより株主を確定させているのである。それがために、法律は、株券の提出及び株券を無効とする場合は、各株主に対する催告及び公告の方法により、警告と周知とを会社に義務づけているものであつて、株券を無効とすることは、株主名簿の閉鎖、基準日の設定と同一の法律効果を生ずるものといわなければならない。

そして、確定した株主に対し、社団法上の要請から一率に、株式譲渡制限の効力、合併の効力等新たな法律関係を創設し、画一的に普遍の法律効果を生ぜしめているのであつて、新たな法律関係が創設された以上、その権利関係の範囲外の者の存在等は法律の予想しないことである。

上告人が、名義書換をしなかつた株式の譲受人が譲渡制限の定款変更の効力の圏外に在るという理由が見出せないといい、譲渡制限の効力発生後でも効力発生前の譲渡を理由として名義書換請求ができるとすることは極めて不当であると述べた所以も亦ここに在る。

五、株式譲渡制限の規定を設けた場合は、会社は各株主に対し、商法第三五〇条第一項の規定による催告をすることを要する。ここにいう「株主」とは、催告をなす当時株主名簿に記載されている株主であることはいうまでもない。

株式の譲渡は、会社に関係なく会社外で行われると共に、株式を譲り受けた者はその名義書換をすると否とは自由であるから、会社は株主名簿記載の株主を株主として取り扱えば足り、名義書換をしなかつた株式の譲受人は会社に株主たる地位を対抗できないことは既に述べたとおりである。

してみれば、会社が株主として取り扱う株主に対し、株式譲渡制限の効力の生じ新たな法律関係が創設された以上、その創設された法律関係に従つた手続が履践されるべきことは当然のことである。

六、原判決は、「株式譲渡制限の規定の効力は、既になされた株式譲渡の効力に影響がない」旨を述べ、「株券の交付を受けて適法に株主となつた被上告人は、本件のような事由で株券が無効となつても、株主の地位を失うものではない」としているが、前段の部分は、遡及効がないことを強調するの余り、現在においては当該株式自体に新たな法律関係が創設されていることを看過した点において、後段の部分は、譲受人(取得者)と譲渡人との関係と、譲受人(取得者)と会社に対する関係とを、分界区分していない点において、いづれも理論の飛躍があり、破棄を免れない。すなはち原判決には、株主名簿記載の効力に関する商法第二〇六条第一項、及び株式譲渡制限の規定の効力に関する同法第三五〇条第一、二項の解釈を誤つた違法がある。

第二点 原判決は、株式の名義書換に関する法律の解釈を誤つた違法がある。

一、原判決は、株式の名義書換請求に株券の呈示が必要とされるのは、株主としての資格を証明させるためのもので、「本件のように旧株券が既に善意取得の対象とならず、かつ、旧株券に対応する新株券が発行されておらず、被上告人が適法に株主となつたことが訴訟上証明されている場合は、有効な株券の呈示は必要ではない」としている。

二、被上告人が、上告人に対する関係で適法な株主であるとすることが誤りであることは既に述べたとおりであるが、この点は一応措き、かつ、原判決の述べる事情が存在したとしても、原判決には承服し難い。

原判決のいう請求者たる被上告人が適法に株主となつたことが訴訟上証明されている場合の「適法に株主となつた」とは、要するに被上告人が本件株式を譲渡により取得したということに在ると解される。そしてそのことが訴訟上証明されているということの意味は、訴訟で証明された場合に限定するという趣旨か、或いは訴訟外においても証明されている場合も含む趣旨かは必ずしも明らかでないが、「株式の譲渡により取得」という法律効果は、訴訟によらなければ証明できないことではないから、原判決のいう真意は「証明」の点に重点が在るものと解される。

そうだとすると原判決は、株主となつたことが証明されれば、新株券が発行されていないときは、無効の旧株券の呈示は必要でないというようにとれる。ということは、つまり被上告人は甲第四号証の一の株式名義書換請求書及び同号証の二の印鑑票の提出のみで株式の名義書換請求ができるということになり、原判決のいう「適法に株主となつたか否か」の点は、真券によらずして証明を認容することとなり、前後矛盾する。

このようなことは、株券の再発行に関する商法第二三〇条の精神及び除権判決の効力と著るしく権衡を失する。株式の名義書換は、有効な株券の呈示に基づきなされるべきもので、有効な株券が存在しない場合は、有効な株券の再発行等を受けた上で行われることが、法の精神であり、そこに例外はないと解される。

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